新規事業立ち上げを成功させる教科書|事業アイデアを考える手順

業務効率化

企業にとって新規事業の立ち上げは、新たなビジネスチャンスの創出に加え、既存事業への依存から脱却したり、事業に関わる社員の人材育成に貢献したりするメリットがあります。

一方で、新規事業を立ち上げた中小企業の経営者のうち、約71%が「成功していない」と回答しているのが現状です。すでにライバル企業が多い市場に参入して結果を出すには、事業立ち上げ成功のポイントをおさえる必要があります。

「新しい事業をはじめたいけど、どんな事業を立ち上げればいいんだろう…」

「成功させたいけど、どんな風に進めていいかわからない…」

初めての新規事業立ち上げで出てくる不安が解消できるよう、本記事では事業アイデアをひねり出す手順・考え方について解説します。加えて、事業立ち上げに必要な準備物や役立つ制度・サービスの紹介するので、事業立ち上げに向けて一緒に準備をはじめましょう。

新規事業を立ち上げるアイデアの出し方とは?6つの手順

新規事業立ち上げで最も難しいのが「事業アイデアを練る」ことです。斬新で奇抜なアイデアであればよい訳ではありません。市場調査で導き出した顧客ニーズにマッチする、魅力的なサービスを提供する必要があります。

成功を左右する事業アイデアの出し方について、6つの手順にまとめました。

1.既存事業の顧客にヒアリングする

事業アイデア考案の第一歩は、既存事業で商品やサービスを提供している顧客への調査です。事業が成功するか否かは、実際に商品・サービスを利用する顧客が、金銭を投じてでも「欲しい」「やりたい」と感じる価値を生み出せるかにかかっています。新規事業を立ち上げる際は、商品やサービスに対する顧客の意見や反応に隠されたヒントを参考にしてアイデアを練りましょう。

顧客の意見や反応を得るのに最も簡単かつ有効な手段は、すでにつながっている顧客へのヒアリングです。ヒアリングする際の質問項目は、以下を参考に検討してください。

~顧客へのヒアリング項目例~

  • 現在提供している商品やサービスで改善してほしいこと
  • 他社の商品やサービスで利用しているものはあるか?
  • 困っていること、改善したい悩み
  • 今後リリースしてほしい商品やサービス

新商品・サービスの要望をストレートに聞くだけでなく、現在提供している自社商品・サービスの改善点から、事業アイデアの着想を得られる場合があります。また、あわせて年齢や性別・職業といった属性を確認しておきましょう。ヒアリング結果から「20代・女性に多い悩み」「会社員の男性が欲しているサービス」といった具合に、ターゲットを絞ったより深い考察ができるのでおすすめです。アンケート回答のお礼を用意しておくと、回答率アップが期待できます。

アンケート収集や回答集計を効率的に行うのであれば、電話や手紙でヒアリングするよりWeb上でアンケートをとる方法がおすすめです。弊社が提供している「formrun」は、テンプレートを選んで項目を選ぶだけの簡単設計でフォームを準備できるのに加え、アンケート結果を自動取り込み・分析できます。手間なくヒアリングしたい場合は、ぜひ活用してください。

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2.市場を調査する

顧客の声と並行して、市場調査を実施しましょう。市場調査では、購買や消費活動が盛んなマーケットの成長を予測して参入時期を図れます。また、市場にいる顧客が欲しているニーズに対してどのような商品・サービスが供給されているのか、マーケットごとの内情を知るのに便利です。調査の結果により、新規に参入する市場が適当か、事業アイデアが顧客ニーズを満たすかを確認できます。

市場調査において、現在の市場規模を「事業性」、将来的な成長率を「市場性」と表現します。事業性・市場性を見極める上で、以下の項目を調査しましょう。

~市場調査で調べる項目例~

  • 現在の市場規模がどのくらいか、ここ数年でどのように推移しているか
  • 競合他社はどのくらいの数か、市場を牛耳る大手企業はどこか
  • 急成長をとげている企業や人気になっている商品・サービスはあるか
  • 市場にいる顧客はどのような人か(年齢、性別、職業、ライフスタイル、もっている悩み、叶えたい願望など)
  • 市場に影響を与えそうな社会的ニュース、法整備の改定はあるか

おおまかな市場規模や顧客ニーズはインターネットで調べられますので、気になる市場を検索してみるのがおすすめです。競合他社の動向や提供されている商品・サービスは、マーケティング調査会社に委託したり、市場調査用のプラットフォームを利用したりして調査できます。以下にリサーチ会社やサービスをいくつか紹介するので、必要に応じて検討してください。

~リサーチ会社やサービスの例~

3.競合他社の動きを把握する

事業アイデアを検討する上で、競合他社の動向はできる限り把握しておきましょう。すでに競合が多い市場に参入する場合、提供されていない新しい商品を提供したり、まだ他社が手を出していない分野でサービス展開したりすることが必要です。現状で競合他社がどういう商品・サービスをリリースしているか、調査して把握しておくことで、自社が新規事業で提供すべき商品・サービスの方向性が見えてきます。

市場調査の過程で競合他社の規模や商品・サービスの売れ筋がわかるため、参考にしながら競合を把握します。特に成長中の企業の商品やサービスは、実際に購入してみるのがおすすめです。顧客目線で実際に利用することで、どの点が顧客のニーズを満たしているのかがわかります。

4.顧客ターゲットを明確化して、ニーズを検討する

どういう需要にアプローチするのかを具体的に決めるべく、市場・競合調査で収集した情報をもとに、顧客ターゲットを明確化しましょう。新規事業でアプローチする顧客のニーズを満たすには、ニーズをもっている顧客がどういう人物で、どういう悩みをもっていて、何が達成できるとメリット・ベネフィットを感じるのかハッキリさせることが必要です。より具体的な顧客イメージがあると、商品・サービスとして何を提供すべきなのかが見えてきます。

自社の事業でターゲティングする顧客の具体的なイメージ像を「ペルソナ」と呼びます。顧客の声や市場・競合調査の結果を踏まえ、自社の商品・サービスを手にとってくれそうな顧客をイメージし、言語化してください。以下の項目を埋めるようにシート化するのがおすすめです。

~ペルソナの設定項目例~

  • 年齢や性別
  • 居住場所
  • 仕事内容、役職
  • 収入がいくらか
  • 学歴
  • どのような性格か
  • 休日の過ごし方
  • 普段抱えている悩みや悩みに対して取り組んでいることは何か
  • 目標や目指していること
  • よく利用する商品やサービス

5.自社の経営資源を確認する

事業アイデアを詰める最終段階に突入する前に、自社の経営資源を確認しておきましょう。経営資源とは、自社が事業展開する上で必要なリソースのことです。せっかくよいアイデアが思いついても、実現できないと意味がありません。

経営資源は、具体的に以下の4つを指します。実現したいアイデアで過不足がないか、足りない場合は補充が可能か、後々議論できるよう実情を正確に把握してください。

~4つの経営資源~

  • ヒト:事業を動かす上で必要な人手や人材。商品を開発したり、現場でサービスを提供したりする人を指す。
  • モノ:商品をつくる・管理する・販売するのに必要な物資。商品そのものに加え、設備や原材料、工場や倉庫を含む。
  • カネ:事業を運営していくのに必要な資金。人件費や設備投資費を含む。
  • 情報:事業に関わる重要な無形資産。顧客リスト、商品開発のノウハウ、地域コミュニティとのつながりを含む。

6.参入する市場や提供するサービスを決定する

調べてきた情報を統合して、参入する市場や提供する商品・サービスを決定し、事業アイデアとして具現化します。新規事業の構想を練る上での必要情報が揃っているので、「どこ(市場)で、誰(顧客)に、何(商品・サービス)を、どのように(販促方法)売るか」を整理します。

参入する市場や顧客、商品・サービスの如何は「事業ドメイン」とも呼ばれ、経営の方針を左右する要素です。明確になることで、新規事業で何をすべきかの方針が定まります。

新規事業立ち上げを成功させるには?4つのポイント

いくら正しく手順を踏んでも、適当に考えるだけでは、事業で成果を残せるアイデアは生まれません。以下に紹介する4つのポイントをおさえて、素晴らしい事業アイデアを考案しましょう。

顧客の悩みや不安な気持ちを想像する

新規事業で成功するアイデアは、すべて顧客の悩みや不安な気持ちを解消するものです。自分が提供したいものを提供するのではなく、提供する商品・サービスを利用した顧客がどう思うか、常に顧客視点で検討しなければなりません。

抱えている悩みや不安が解消され、快適な生活や理想の状態が具体的にイメージできたとき、はじめて顧客は自社の商品・サービスに興味をもちます。設定した顧客ターゲットを振り返り、顧客の気持ちに寄り添うことを第一に考えましょう。

他社の商品やサービスとの優位性・差別化を考える

自社で提供する商品・サービスは、他社が提供している似たようなものと圧倒的な優位性があり、差別化されている必要があります。市場にはすでに多くの商品・サービスが出回っており、他社品・従来品との違いや革新的なメリットがないと、顧客の目にとまりません。

以下を参考に、自社の商品・サービスの優位性・差別化はどこか考えましょう。

~顧客に響く他社との優位性・差別化ポイント~

  • いままで出会ったどんな商品よりも性能が優れている
  • こんなに簡単に使えるなんてスゴい
  • どのサービスよりもリーズナブルで、コスパ最高

ただ優位性があって差別化できているだけでなく、販促の段階で優位性・差別化が顧客にストレートにアピールできるかが重要です。自社が保有する経営資源によって実現できない場合があるので、資源内で何が提供できるか頭をひねりましょう。

アイデアは無限に出す

検討段階では、新規事業を検討していく中で絞った方向性にマッチするように、たくさんのアイデアを出してください。新規事業が成功する確率は低いので、少しでも多くのアイデアを候補に出した方が、事業の成功率アップに貢献します。

いざ事業アイデアを考えようとすると、無意識に1つないし2つ出して満足しがちです。ひとりで思いつくのに限界があれば、自社のメンバーに声をかけ、チーム内でたくさん考案するのがおすすめです。

ターゲットイメージに近い第三者の意見を参考にする

顧客ターゲットを決める際は、ターゲットとした人物像に近い人の意見を参考にするのに加え、利害関係のない第三者の意見を参考にするのがおすすめです。自社のメンバーや身内といった近すぎる関係性の人からの意見は、先入観に基づいた意見になるリスクがあります。たとえば、「自社の商品なのだからよいものだ」「この人が考えたアイデアだからヒットするだろう」といった具合です。

特に利害関係がなく、事業アイデアをはじめて耳にする人の新鮮な反応が、商品・サービスを利用する顧客の反応に類似します。事業アイデアに対して意見をもらう場合は、人選に気をつけましょう。

新規事業立ち上げに役立つ7つのフレームワーク

「フレームワーク」は、思考する上での手順や要点をまとめた型・テンプレートのこと。市場調査やアイデア出しの質を高めるのにおすすめなフレームワークを7つ厳選しました。

PEST分析|マクロな視点で市場を分析

PEST分析は、市場を分析したり事業戦略を練ったりするのに使えるフレームワークです。市場環境に影響がありそうな事柄を4つのキーワードごとに書き出し、調べたい市場の今後の変化を巨視的に予測して、とるべき戦略を見出します。

~PEST分析 4つの視点~

  • Politics(政治的な要因):政治的リスクや法制度の改革、物流業界への影響など、市場に影響を与える政治の動きは何か?
  • Economy(経済的な要因):株価の変動や設備投資の費用相場の変化など、市場に影響を与える経済ニュースは何か?
  • Society(社会的な要因):人々のライフスタイルや価値観の変容、トレンド・流行など、市場に影響を与える社会の変化は何か?
  • Technology(技術的な要因):ITの進化や機械化の普及など、市場に影響を与える技術的革新は何か?

マクロな視点で分析できる点が特徴で、自社が進むべき未来を中長期的に導けます。

SWOT分析|自社内外のよい/悪い影響を整理して戦略を練る

SWOT分析は、PEST分析と同様に、市場分析や事業戦略を練るのに使えるフレームワークです。以下を参考に、自社内外の環境要因から思いつく限りの事柄を書き出し、市場における自社の方針を決めます。

~SWOT分析 4つの視点~

  • Strength(自社の強み):他社に真似できない、自社がもっている強みは何か?
  • Weaknesses(自社の弱み):他社と比べると劣っている、自社の弱みは何か?
  • Opportunities(周囲にある機会):自社内の要因以外で、事業の大きな成果につながりそうな事柄は何か?
  • Threats(周囲にある脅威):自社内の要因以外で、事業の存続を脅かしそうな事柄は何か?

自社内外の要因を総合的に比べて解析することで、市場の動向に合った自社の事業戦略を練るのに効果を発揮します。加えて、よい影響・悪い影響を同時に検討し、自社の強みを伸ばしつつリスクヘッジの視点を忘れない方針に導けるのが強みです。

VRIO分析|自社が保有する経営資源の強み・課題を探る

VARIO分析は、PEST分析・SWOT分析と同様に、市場分析や事業戦略を練るのに使えるフレームワークです。自社が保有する経営資源に対し、競合他社と比べて優位性があるのかを、以下4つの視点をもとに評価します。

~VRIO分析 4つの視点~

  • Value(経済的な価値):その資源を保有することが業績の向上につながるか、価値を有するか
  • Rarity(希少性):その資源を他社が得たり保有したりすることが可能か
  • Inimitability(模倣の困難性):その資源を他社が得たり保有したりする上で、莫大なコストがかかるか
  • Organization(組織体制):その資源を活用する社内体制・運用フローが整っているか

たとえば自社で最新鋭の「設備」を保有している場合、「商品開発のスピードが従来の2倍で可能な設備は“経済的価値”が高い。最新鋭で他社が保有することは難しく、“希少性”や“模倣困難性”も高い。しかし、設備を扱う人手が足りていないので“組織体制”に課題がある」といった具合に分析します。

事業を運用していく上で重要な優位性・差別化を図るのに、現状自社のどの資源を活用すれば強みが活かせるのか、今後テコ入れが必要な課題はどこにあるか、明確にできるのが魅力です。

4P分析|競合他社のマーケティング戦略を紐解く

4P分析は、競合他社が実施しているマーケティング戦略を分析し、自社の事業設計の参考にできるフレームワークです。市場で目立っている競合他社を設定し、以下4つの要素で特徴を書き出して、どのような戦略で事業展開しているかを解読します。

~4P分析 4つの視点~

  • Prodact(商品・サービス):どのような特徴がある商品・サービスを提供しているのか
  • Price(値段):商品・サービスをどのくらいの金額で提供しているのか
  • Place(販路・流通):商品・サービスをどの場所・経路で提供しているのか
  • Promotion(売り方・販促):商品・サービスをどのような宣伝・販売方法で提供しているのか

4つの視点から他社のマーケティングを言語化していく過程で、他社の狙いやターゲット、ケアできていない範囲を探れます。自社の優位性・差別化を見出す上で有効なデータとして活用しましょう。

共感マップ|顧客の気持ちを一段深く理解する

共感マップは、ターゲットとなる顧客の気持ちを深く理解するのに使えるフレームワークです。ペルソナで具体的にイメージした顧客がおかれている状況や感情を、以下の項目ごとに書き出して可視化することで、スペックだけではわからない顧客の気持ち面を浮彫にします。

~共感マップ 顧客の気持ちを理解する項目例~

  • 何を見ている?:生活の中で目にする物体、よく行く場所、出会う人、使っている商品・サービス
  • 何を聞いている?:生活の中で耳にする音、人との会話、メディアからの情報
  • 何を考えている?:直接喋らないけど頭に思い浮かべていること、関心をもっていること
  • 何を感じている?:よく出てくる感情、意図せず心に思い浮かぶこと
  • 何を言っている?:会話でよく出る口癖、身近な人との会話内容
  • 何をやっている?:毎日やっている行動、普段の振る舞いや態度、癖になっていること
  • 何に痛みを感じる?:感じているストレス、恐いと感じること、逃げたくなるような障壁
  • 何を得たい?:常に望んでいること、叶えたい夢、達成したい目標、成功の基準

より具体的な顧客ターゲットのイメージを描けるのに加え、マップ化しチーム内で共有することで、メンバー間での認識を一致できる点がメリットです。

オズボーンのチェックリスト|検討する視点を増やしてアイデア数を増やす

オズボーンのチェックリストは、アイデア出しをする際に使えるフレームワークです。1つのテーマ・キーワードに対し、9つの視点をもとに考えを広げることで、アイデアの数を増やせます。

~オズボーンのチェックリスト 9つの視点~

  • 転用:新たな使い方を模索できないか、他の方法で使えないか
  • 応用:似たようなアイデアを活用できないか、ほかの知識や常識を当てはめられないか
  • 変更:デザインを変えたらどうか、別の目的で使えないか
  • 拡大:サイズを大きくしてはどうか、規模を拡大してはどうか、付加価値をつけられないか
  • 縮小:サイズを小さくしてはどうか、規模を縮小してはどうか、余計な機能を削除できないか
  • 代用:別の素材でつくるとどうなるか、担当者を替えるとどうなるか、製造方法を別の方法にするとどうなるか
  • 置換:配置を入れ替えるとどうなるか、別のパーツで再編成するとどうなるか
  • 逆転:上下左右を反転するとどうなるか、逆転の発想をするとどうなるか
  • 結合:真逆の要素を組み合わせるとどうなるか、新旧の要素をあわせるとどうなるか

アイデアを無限に出すのは至難の業です。オズボーンのチェックリストは、考える視点の数を増やすことで、斬新なアイデアを数多く生み出すのに貢献します。

プロコン表|メリット・デメリットを比べてアイデアを評価する

プロコン表は、出したアイデアが成果を出せるものか評価するのに使えるフレームワークです。出てきたアイデアごとにメリット・デメリットを書き出し、自社の事業推進にどのくらい影響するかを「重要度」として点数化します。英語でよい点を「Pros(プロス)」、悪い点を「Cons(コンス)」と表現することが、プロコン表と呼ぶ理由です。

~プロコン表 フォーマット~

 

メリット

重要度

デメリット

重要度

出てきたメリット・デメリットの重要度を参考に、アイデアが事業において価値のあるものなのか、実現する上でどのような懸念があるのかを把握でき、アイデアを絞る判断材料として活用可能です。よい点も悪い点も両方書き出すことで、偏見なくフラットにアイデアを評価できます。

新規事業立ち上げに必要な準備

事業アイデアが決まったら、立ち上げに向け本格的に準備を進めましょう。

以下より、事業戦略や事業計画など、事前に取り組むべき準備について解説します。

事業戦略を決める

新規事業をはじめるにあたり、自社がどのような戦略・方向性で事業を展開していくのか決めておく必要があります。新規事業と一口に言っても開拓の仕方はさまざまです。事業アイデアを実現させるための事業戦略が決まると、事業立ち上げの際におさえるべきポイントを明確にできます。

また、既存の事業への投資・労力のかけ方を考える上で、事業戦略は重要です。事業を並行して運用していくのか、それとも既存事業を縮小していくのか、自社の経営資源を踏まえた上で、事業戦略のパターンを参考に検討しましょう。

~新規事業の戦略パターン~

  • 新市場開拓戦略:新しい市場・新しい販路を見つけて販促する新規事業戦略。
  • 新製品開発戦略:新しい商品やサービスを開発して販促する新規事業戦略。
  • 多角化戦略:既存の事業を継続しながら、新しい販路を見出したり新商品を開発したりして拡大していく新規事業戦略。
  • 事業転換戦略:既存の事業を縮小・廃止しながら、新しい販路を見出したり新商品を開発したりして拡大していく新規事業戦略。

事業コンセプトを明確にする

どのような商品・サービスを提供するのかに加えて、どのようなコンセプトで商品・サービスを提供するのかを明確にすることが重要です。事業で固めるべきコンセプトとは、「どういった顧客に対し、どのような価値を提供する取り組み/会社なのか」というビジネスプランを指します。

事業コンセプトは、事業や会社の自己紹介として機能するだけでなく、事業や会社の社会的意義や目指すビジョンとして機能します。事業コンセプトが端的でわかりやすく、顧客にとって魅力的に表現されていれば、ブランド価値が高まりより多くの顧客をファンにできる事業としての認知が獲得可能です。競合が多い市場ではブランド価値が武器になるため、事業コンセプトを何と表現するか、事前に考えましょう。

事業計画を策定する

事業コンセプトとともに用意しておきたいのが事業計画です。事業計画とは、具体的な商品・サービス内容や収支計画、販売スケジュールを落とし込んだ資料を指します。新規事業として立ち上げを申請する際に必要な書類ですので、予め準備してください。融資を受ける場面での判断材料になるため、正確に記載するのに加え、事業として取り組む社会的意義にしっかりと踏み込んでまとめる必要があります。

フォーマットは事業形態によって異なるものの、一般的には以下にまとめた要素を盛り込みます。項目ごとに内容をまとめてみましょう。作成が難しい場合は、事業計画作成の代行サービスを利用する方法があります。

~事業計画に盛り込む項目例~

  • 事業の概要、提供する商品やサービスの詳細
  • 事業設立の背景、なぜその事業を立ち上げるに至ったのか
  • 事業コンセプト
  • 事業が目指すビジョン、理想とする状態、事業が社会に与える影響
  • 事業として取り組む意義
  • 想定している顧客ターゲット
  • 商品・サービスの内容
  • 商品・サービスの販促内容
  • 利益計画・収益計画
  • 販売までのタスク・スケジュール

社内体制を構築する

新規事業立ち上げの前に、新規事業を立ち上げ運用できるだけの社内体制を構築しておく必要があります。経営者ひとりで新規事業を立ち上げ、成果が出るよう運用していくのは、現実的に限界があります。既存の事業を並行して運用するのであれば尚更です。新規事業立ち上げに必要な人手と役割分担を考え、自社のメンバーに協力を要請し、新規事業立ち上げチームを構築しましょう。

新規事業立ち上げチームを発足する際は、新規事業を起こすことで会社がどのように成長できるのか、事業立ち上げにメンバーのどのような協力が必要なのかを伝え、気持ちを揃えるのがおすすめです。キックオフミーティングを開催し、一人ひとりが自身の役割を理解し、使命感をもって取り組めるよう準備しましょう。

目標を決める

事業の良し悪しを判断するために、数値化した定量目標を設定しておくのがおすすめです。新規ではじめる事業なので、実際にどのような成果が出るのかは誰もわかりません。ただ、事業である以上は成果を数値化し、運用していく必要があります。このまま事業を拡大するのか縮小するのか、テコ入れし改善するのか、判断ができるよう、あらかじめ数値の目標をたてましょう。

一般的には、事業の成果を図る指標として、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)が用いられます。KGIが事業全体のゴールとして設定される数値目標であるのに対し、KPIはKGIを達成する上での途中経過の数値目標です。実際に事業がスタートした後で軌道修正しながら運用するので、金額設定に対してはあまり神経質にならず、最終的に事業として得たい売上目標から逆算しておおまかに設定しましょう。

新規事業立ち上げから運用までの手順

新規事業立ち上げの準備が完了したら、いよいよ立ち上げに向けた手続きに移ります。その後の事業運用まで含めて、進行方法を5つの手順にまとめました。

1.必要な資金を調達する

新規事業の立ち上げに必要な資金が不足している場合、資金調達をする必要があります。民間の銀行や日本政策金融公庫の融資を受けるのが一般的な方法です。融資の合否が事業計画で決まるため、新規事業の社会的意義や計画の信憑性を訴求できるよう準備しておきましょう。

銀行や公的機関からの融資以外では、クラウドファンディングで資金を調達できます。事業の内容をWeb上に公開し、方針に共感したり事業の実現に賛同したりするユーザーから募金を集める方法です。個人で簡単にアップできるほか、開業前の宣伝になる効果が期待できます。

そのほか、売掛債権を売却することで現金を得るファクタリングという方法で資金調達するケースがあります。ファクタリングは、代金請求の権利を売ることで、事業立ち上げにかかる資金を現金により担保する方法です。ファクタリング専門の業者と取引することで調達できます。

2.事業設立に向け手続きする

資金の用意ができたら、いよいよ事業設立に向けた手続きです。開業届・事業開始申告書など、事業立ち上げに必要な書面をまとめ、会社本拠地の管轄である税務署に提出します。必要な書面は管轄の税務署により異なるため、事前に確認をしてください。

場合により、会社を設立した際の定款を書き換える必要があるため、注意が必要です。定款には事業内容が詳細に記載されており、新規事業を立ち上げるのに伴い定款内容が設立時と異なる可能性があります。定款が実際の会社運用状態と異なる場合、融資を受ける際の評価への影響や取引先との信用問題に発展しかねないため、修正する必要がないか税務署に確認しましょう。

3.商品・サービスを開発する

手続きが問題なければ、事業計画で提出したスケジュールに基づき、提供する商品やサービスを開発します。

特に物販の場合、ものづくりの時間を考慮して準備しなければなりません。スケジュールによっては手続きと並行して動かなければならない場合がありますので、注意しましょう。

4.マーケティングや販売活動を実施する

商品開発と並行して、マーケティング・販売活動をスタートする準備が必要です。顧客に商品やサービスを届けるために、必要な媒体に広告を出稿したり、宣伝・販売したりします。

店舗販売であれば売り場の改装工事やレイアウトの検討、インターネット販売であればECサイトの制作や注文システムの構築など、やることが盛り沢山です。商品開発と同様に、やることを洗い出してスケジュールをたて、新規事業開始に向け進捗させましょう。

5.実績を都度確認し、改善点を模索する

提供する商品やサービス、販売準備ができれば、いよいよ新規事業のスタートです。事業がはじまったら、実績を都度確認し、課題があればすぐに改善します。

新規事業を構想する際に設定したKPI・KGIを常に意識し、新規事業の実績がどうであるかが数値で判断できるよう、社内の分析体制を整えておきましょう。競合他社が多い市場で新規事業を成功させるには、商品・サービスの品質向上や課題改善をいかにスピーディーに実現できるかが重要です。

新規事業立ち上げを成功させるためのポイント

立ち上げた事業を成功させるのは簡単ではありません。新規事業を運用していく上で、成果を出すためにおさえておくべきポイントを4つ紹介します。

中長期的な視点で計画をたてる

定量的な計画をたてる際は、中長期的な視点で考えるよう意識づけてください。事業を立ち上げたばかりの段階では業績や売上が不安定で、数値から運用の良し悪しを判断するのに苦戦します。

事業において重要なのは、提供している商品・サービスが長く顧客に愛され、売れ続けることです。目の前の数値で一喜一憂せず、3年、5年、10年先にどのような状態を目指すのかを考え続けましょう。

小規模でテストしてから拡大する

いきなり予算を投じて一か八かで勝負するのではなく、小規模でのテスト販促を実施し、テスト結果を踏まえて拡大するか否かを判断してください。

どんなに商品価値が優れていても、外部の環境要因や競合他社の影響で、事業が失敗するリスクは常に存在します。有限な予算や資源を無駄にしないためにも、必要最低限のリソースを意識し、まずはテストすることを忘れないようにしましょう。

完璧を目指さない

最初から完璧な状態を目指さないようにすることは、新規事業を立ち上げる上で肝に銘じておきたい考え方のひとつです。そもそも最初から100%予想通りに成果が出る事業はほぼ存在しません。すぐに成果が現れないからと焦って下手に動くと、無駄なコストをつかって取り返しのつかない自体になりかねません。

事業運用はPDCAが基本です。一発で成果を叩き出すのではなく、「計画を立て実行し、結果を分析して課題点を見つけ改善する」というPDCAサイクルを意識して、どんどんブラッシュアップする運用方針で進行しましょう。

撤退する基準を決めておく

事業を立ち上げる前に、「1年で〇〇円の売上に満たない場合は事業をやめる」など、撤退する基準を決めておいてください。最初から成果が100%出ないとはいえ、どんなに時間をかけて挑んだ事業でも、結果に結びつかない場合があることを覚悟しておきましょう。

自社の経営資源は有限です。事業立ち上げに時間がかかればかかるほど撤退したくなくなる気持ちをおさえつつ、ダメなときはダメだと判断し、切り替える強さをもってください。

リソースの差はあれ、多くのライバル企業は、常に新規事業をたくさん検討・立ち上げて勝負をしかけてきます。ダメなら次の手を…と前向きな気持ちで取り組んでいくのが、新規事業立ち上げに求められるマインドです。

新規事業立ち上げ時に申請可能な助成金・補助金

新規事業を立ち上げる際、資金面での不安を解消できる助成金・補助金の制度が存在することをご存知ですか?

新規事業立ち上げの際に受けられる助成金・補助金制度を5つ紹介します。事業内容や条件次第で申請可能ですので、新規事業を立ち上げる前に確認してください。

ものづくり補助金|中小企業のものづくりに必要な設備費用をサポート

ものづくり補助金は、正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」という名称の助成金・補助金制度です。中小企業や小規模事業者のための制度で、革新的な商品開発やサービスを考案する企業に対し、設備投資やシステム構築にかかる費用を支援する目的で運用されています。

※詳細はコチラ

小規模事業者持続化補助金|小規模事業者の中長期的な事業運営をサポート

小規模事業者持続化補助金は、サービス業や宿泊業、製造業に該当する法人や個人事業主を対象とした助成金・補助金制度です。中長期的に経営していく小規模事業者の販路開拓や設備投資、広告活動に対して支援します。商工会議所が管轄している地域で事業を営んでいることが条件です。

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IT導入補助金|システムやIT導入にかかる負担をサポート

IT導入補助金は、中小企業のIT導入をサポートする助成金・補助金制度です。受発注や決済、会計といった販促活動をシステム化するのにかかる費用やサービス導入を支援します。そのほか、セキュリティ対策を強化したり、インボイス対応のシステムに切り替えたりする場合が対象です。

※詳細はコチラ

事業再構築補助金|成長に向け心機一転がんばる中長期業をサポート

事業再構築補助金は、事業・業態の転換や新規事業立ち上げに挑戦する中小企業を支援する助成金・補助金制度です。ポストコロナ時代の中小企業が業績回復を図って事業を再構築するサポートが目的で発足されました。認定経営革新等支援機関にて確認された事業計画を提出し、3~5年で指定の成果基準を超えることが支援金の条件です。

※詳細はコチラ

中小企業省力化投資補助|人手不足解消につながる効率化製品の導入をサポート

中小企業省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業を対象とした助成金・補助金制度です。専用のカタログに掲載されている、業務効率化・人手不足解消に貢献する製品の導入費用を支援します。製造事業者側は、中小企業の支援につながる製品を申請してカタログ掲載し、利益を得ることが可能です。

※詳細はコチラ

新規事業立ち上げを支援するサービスやツール

助成金・補助金以外にも、新規事業を立ち上げるのに使える便利なサービスやツールがあります。

以下では、3つのサービスやツールを紹介します。

グレーゾーン解消制度|法規に関する不明点を公的機関に確認できる制度

グレーゾーン解消制度は、立ち上げようとしている新規事業が法的に問題ないか調査できる制度です。

経済産業省のホームページに掲載されているフォーマットを参考に照会書を作成して、所管を担当する省庁に提出すれば受けられます。事業ごとに確認対象となる法規が異なるため、提出先の省庁は経済産業省に事前確認しておくと安心です。

公的な見解をもとに安心して事業をスタートできるほか、公的機関の調査結果をもとに健全な経営への取り組みを顧客へアピールできます。

コンサルティングサービス|専門的見地から新規事業立ち上げをバックアップ

新規事業の立ち上げはコンサルティングサービスに相談・委託することが可能です。会社により異なるものの、以下のようなさまざまなサービスを受けられます。

~コンサルティングサービスで相談・委託可能な範囲~

  • 市場調査、競合分析
  • 事業アイデアや商品・サービスの企画
  • 事業戦略の設計
  • 事業計画の策定
  • 顧客データを活用した分析・課題抽出
  • 事業立ち上げに向けた組織体制の構築

知識と経験をもったプロにコンサルティングしてもらうことで、専門的な見地から経営に対する客観的意見をもらえるのが魅力です。費用相場は年間で300~1000万円と高額になる場合があります。対応内容により変動するため、複数社で相見積りをとるのがおすすめです。

ホームページ・フォーム作成ツール|通販用ECサイトからカスタマーサポートまで幅広く対応

Web上での販促活動や顧客対応を実施する上で、ホームページやサイト、問い合わせフォームが必要です。自社にデザイナーやシステムエンジニアが在籍していなくても、専門知識不要で簡単にホームページやフォームを作成できるツールが数多くリリースされています。

無償利用できるサービスが多く、デザイン性・機能性の質がよいので、新規事業としてはじめるスタートダッシュに最適!事業を進める上でカスタマーサポートは顧客満足やブランドへの信頼を左右する要因のひとつですので、着実に用意しておきましょう。

顧客対応に必須のフォーム機能は、弊社が提供しているフォーム作成サービス「formrun」をぜひご活用ください。使いやすく見やすいフォームのテンプレートを選んで、管理画面から質問項目をカスタマイズするだけでOK。メールの自動送信機能や顧客データの管理まで一気に対応できるので、忙しい新規事業の立ち上げ準備中でも手間なくフォームを用意できます。

新規事業立ち上げを成功させて、会社組織のさらなる成長を実現しよう!

新規事業立ち上げは、新たなビジネスチャンスを創出し、企業が成長するためにも非常に重要です。成功させるためには、顧客視点で練られた事業アイデアを考案し、漏れなく立ち上げに向けた準備を進める必要があります。

使える制度やサービスを活用しつつ、新規事業立ち上げを成功させ、自社を一段と成長させましょう。